「I」

愛してる
あいしてる
アイシテル

戯言のように繰り返される、それは。

 

仕事帰りに買い物を済ませて家に帰る。
少し萎びて安くなった野菜や、派手に30%offと貼られた肉。
それらも鍋に、フライパンに、切って落とされれば皆同じだ。
料理上手とは言えない私の、切って味を足して煮込んだだけのスープと、切って味を足して炒められただけの食材達。

「いただきます」

自分しか居ない部屋で手を合わせれば、空間に乾いた音が響いた気がした。
そっと目を閉じて、鼻から息を吸い、口から肺を満たしたものを吐き出す。
遠くで、本当に向こうの向こうで、彼が呼んだ気がした。

「――、愛してる。愛してるなんて、本当はわからないけど、それでもきっと、俺はお前を―――」

耳元で聞こえたアイシテルに、ヒュッと息が詰まる。
横を見る。後ろを見る。あなたはいない。

あなたは記憶。
遠くて近い、私の中のあなた。
もう触れることは無い「愛してる」。
それは今も私のことを蝕んでいる。

愛してる
あいしてる
アイシテル

あなたはあなたをアイしてる。

 

 

『一人遊び』より。
「耳元で囁かれた毒」