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自分へ。また、僕と似た人へ。

自分自身に疲れてしまった貴方へ。

 

一つのことに囚われない。
もし囚われたら何かに書いて、一旦置いておく。

自分を見つける。
愚痴や悪癖、弱音も認めてあげる。

極力必要の無い時に仕事のことを考えない。

一人に依存するのではなく、依存先を増やして重みを分散させる。

死んではならないから、死んでも別にいいと思う。
死にたい訳では無い。思うくらい許そう。

頑張りすぎない。
僕は特に空回りするから、程々に。

目の前の景色を無心に見る。
余計なことは後回し。無駄かもしれないが、詩でも綴ろう。

人に、自分に感謝する。
人にはもちろんだが、自分自身にも感謝してみよう。

本は読みたい時に読みたい本を読む。
勧められたからといって、焦って義務として読まない(本と人に失礼だ)。

ツイッターは追いすぎない。
また自分の時間を作ろう。

食べたい飲みたい欲求にはある程度応えてあげる。
食欲は生きる糧だ。お財布と相談してね。

小さな自分の甘えは許してあげる。
度が過ぎていたら、注意してくれる人も居てくれるのだから。

人を頼り、人に頼ってもらえたら感謝。
頼らないのに頼れないよ。頼りたい人には弱味を見せて行こう。

ごめんなさいより、ありがとうを増やす。
これは本当に大きな課題。

やりたいことを沢山見付ける。
簡単な事でもいい。素直になれますように。こんがらがりませんように。

 

繰り返している。
繰り返しているからこそ、悪いまま繰り返さないように。
繰り返すことは無駄ではない。そう思えますように。

「I」

愛してる
あいしてる
アイシテル

戯言のように繰り返される、それは。

 

仕事帰りに買い物を済ませて家に帰る。
少し萎びて安くなった野菜や、派手に30%offと貼られた肉。
それらも鍋に、フライパンに、切って落とされれば皆同じだ。
料理上手とは言えない私の、切って味を足して煮込んだだけのスープと、切って味を足して炒められただけの食材達。

「いただきます」

自分しか居ない部屋で手を合わせれば、空間に乾いた音が響いた気がした。
そっと目を閉じて、鼻から息を吸い、口から肺を満たしたものを吐き出す。
遠くで、本当に向こうの向こうで、彼が呼んだ気がした。

「――、愛してる。愛してるなんて、本当はわからないけど、それでもきっと、俺はお前を―――」

耳元で聞こえたアイシテルに、ヒュッと息が詰まる。
横を見る。後ろを見る。あなたはいない。

あなたは記憶。
遠くて近い、私の中のあなた。
もう触れることは無い「愛してる」。
それは今も私のことを蝕んでいる。

愛してる
あいしてる
アイシテル

あなたはあなたをアイしてる。

 

 

『一人遊び』より。
「耳元で囁かれた毒」

新月の夜、また君と。

月のない夜。こんな日は決まって窓を開けておく。
ベッドに潜ってもぞもぞとしていると、ほら、来た。
部屋にぺたぺたと、小さな足音。
彼女曰く、自分は月のない夜にだけ自由に動ける妖精なのだとか。
本当は玄関から入ったのだろうに、窓を開けていないと入れなかったと控えめに拗ねるのだ。
だから月のない夜は玄関と窓の両方を開けて彼女を待っている。

初めて彼女の存在を知ったのは、家の鍵をかけ忘れて仕事に出た週の休みの日だった。と、思う。
お隣の奥さんが訪ねてきて、娘が勝手に入ったのだと謝りに来た。
鍵を閉めていなかったのは僕の責任だし、家のものは何も壊れたりしていなかったので、わざわざ謝りに来なくても良かったのに、丁寧な人だ。
その日奥さんが持ってきた菓子折りは、また鍵を掛け忘れた日にゴミと化していた。
盗まれて困るようなものも無く、面白がって鍵を閉める習慣をなくしたところ、彼女は夜にやってきた。

月のない夜だった。
物音で目が覚めた僕は、少しの肌寒い風を感じて窓を見た。
そこに彼女は膝を抱えるようにして座っていたのを覚えている。
彼女の髪はボサボサで、秋だというのに袖のない黒いワンピースを着ていて、そこから露出した肌には青黒い痣が転々と存在を主張していた。
あの日から僕らはこうして逢瀬を重ねている。

まだ小さな少女は、僕がベッドから出たのに気付くと、上目遣いに手にしたマグカップを差し出す。
それを受け取って冷蔵庫から出した牛乳を注ぎ、電子レンジで温める。
ピーという音で出してやり、砂糖はスプーン3杯。
持ち手にハンカチを巻いて熱くないようにしてから、素直に椅子に座っていた少女に菓子パンと共に渡してやると、上目遣いにお辞儀をして受け取る。
それから嬉しそうにふーふーしながら少しずつホットミルクを舐める。
それを眺めながら、今日も青い彼女の痣を眺める。
血が固まった跡もあった。
本当に優しくしていいのだろうか。余計に辛くはならないだろうか。何かできないだろうか。
そんなことを考えながら、いつも菓子パンを頬張り、ホットミルクを舐める彼女を見ている。
食事を終えた彼女の膝に、テディベアを押し付ける。
「プレゼント」
驚いた顔をした彼女にそう言うと、よくわかっていない様子ながら、また嬉しそうにそのふかふかを抱きしめた。
何かできないか。なんとかできないか。
そうしてまた夜は明けるのだ。

気付けば朝で、知らないうちにベッドの中で。
夢かと思う。
でも、台所には洗われたマグカップ。椅子に残ったふかふかなクマ。
さっさと支度をして、寂しい家から出る。
鍵もかけないまま歩き出せば、隣りの家のドアが開く。
奥さんが高校生くらいの見知らぬ少女を送り出していた。

昨夜の彼女を思う。
彼女の名前を、僕は知らない。
彼女の真実を、僕は知らない。
昨夜も彼女はホットミルクを飲んで、それからふかふかのクマを大事に抱いて、夜明けに溶けてしまったのだ。
また次の新月の夜まで、僕は悩むのだろう。
また次の新月の夜に、僕は悩むのだろう。
それでもまた、僕は彼女を待つのだ。

 

 

「ぬいぐるみ」「ホットミルク」

nina_three_word.

待ち合わせはストレンジ・ツリーで。

1歩、2歩、3歩。
歩く度にゆらゆらと揺れる。
くるりと回ればひだもふわりと付いてくる。
くるくる、ふわり。止まって、ぶわり。
御機嫌な様子でステップを踏む。
ああ、なんて楽しい、嬉しい日でしょう。
あたしは今日、愛しいあなたの呼吸を奪った。
揺れて乱れる愛しいあなた。
 


「呼吸」「プリーツスカート」
nina_three_word.

腕に咲く花

涙が止まらない。
腕を殴り付ける。
涙が止まる。
また、涙が出る。
また、腕を殴り付ける。
また、涙が止まる。
 
何度繰り返しただろう。浴室でひとり。
暖かな日差しも優しい月の光も届かない。
何もない、誰も居ない。
嗚咽を漏らして吸い込んだ白い湯気にむせる。
ああ、君がいたのか。
空を漂う白は消えていく。
またひとり。
ため息も出ない。
それでも涙は枯れないもので。
いっそこの水が何かを癒せればいいのに。
膝を抱えて震える。湯船にまた落ちていく。
自分の為に流れていく雫が、何だかとても醜く、とても汚らわしい。
 
腕を殴り付ける。
泣き止むまで繰り返し、繰り返す。
歯を食いしばり、嗚咽も叫びも噛み殺す。殺す。
助けて欲しかった。大丈夫だと、抱きしめて欲しかった。
知って欲しい。知らないで欲しい。
叶わない。叶わない。叶わない、何も。
それを選んだ。ひとりを選んだ。
誰にも迷惑はかけない。大切な人達に迷惑をかけない。
 
わたしはひとり。
踊る痣と共に。腕に咲いた花を友に。
 
次第に涙は出なくなって、泣きたくて泣きたくて種を撒くけれど、花は咲けども水は枯れた。
それを望んだのは。
願いは叶ったというのに、どうしてこんなにも虚しいのか。
こんなにも虚しいのに、どうしてだろう。
可笑しくて可笑しくて仕方がないの。

あたたかな匣

バスタブにお湯を張りながら、そのゆらゆらと揺れる水面を眺めていた。
湯気の立つ水に手のひらを浸せば、なるほど、温かい。
それからずっと、お湯が溢れるまでそうしていた。

ザアア……。
流石にまずいと湯を止める。
そのまま、服のまま。バスタブを跨いで、中へ。
ザアアア……!
先ほどよりも多く、長く、湯が流れていく。
ヒヨコでも浮かせておけばよかった。
1度張り付いた服が、今度は湯の中でひらひらと泳ぎ出す。
顔を湯に沈め、また出す。髪の毛が張り付く。ただそれだけの事がなんだか面白い。
張り付いた髪を後ろに撫でて流し、うんと伸びをする。
湯から出た肌が少し冷える。濡れた服が張り付く。
ああ、君を感じる。
でも触れてはいけないんだ。魔法が解けてしまうから。
バスタブから出て、服を脱ぐ。脱ぎにくい。
脱ぐ。脱ぐ。
それから脱いだ服を絞って、外の籠に放る。
生まれたままの姿というやつだ。
鏡の前でポーズをとってみた。なんだか間抜けだ。
髪を洗い、コンディショナーを塗り込む。手早く流してしまって、体も洗う。君を意識する。強く意識する。
君に触れられていると思えば、この体に触れる気味の悪い僕の手のことも考えずに済む。
湯を浴びる。
息が出来なくなればいい。溺れてしまいたい。
それでも。湯を止める。
壁を伝う泡を残したまま、それらを横目に風呂場から出る。
 
ふわふわとしたバスタオルで髪の水気を吸い取り、体の水分も吸わせていく。
タオルを肩に掛けて、もう1度お風呂場に戻る。
シャワーを掴み、捻る。泡を退治する。
君はもう居ない。ここには居ない。
お湯を止めてシャワーを転がす。
 
さあ、君の声を聴きに行こうか。

街灯、エプロン、煎餅

街灯のない暗い道をスマートフォンの明かりを頼りに歩く。
仕事帰りにこの道を通るのももう慣れた。近道なのだ。
 
長く思えた道を歩き切り、冷えた手で鍵を探していると、ガチャリと音がしてドアが開く。
「おかえりなさい」
「……ただいま」
広げられた腕に応えてやると、嬉しそうにはにかむ。
体を離すと薄桃色のエプロンをしている。
そういえば中からいい匂いがする。
家に入ってスンスンと匂いを嗅げば、お風呂も沸いてるよと柔らかな声。
こんな日も良いものだ。だが違う方の腹が空いた。
 
女の手を引いて薄っぺらな布団へ。
優しく倒して何度かキスしてやれば、瞳をとろりと潤ませる可愛い女。
先ほどまでエプロンを付けて俺の為に料理を作っていた楚々とした女性が女になる瞬間に、堪らなくそそられた。
布団の上でもつれ合い、高め合う。聞こえるのは荒い呼吸と高く切ない叫び声。それから打ち付けるような湿った音。
仕事のストレスをぶつける様に嬲れば、うっとりと焦点が合わなくなる。
 
意識無く、ただ反射の様に声を漏らすようになった女から離れて台所に行くと、鍋には少し冷めてしまった肉豆腐があった。
適当な皿に盛って食べながらぼんやりと考えるのは、この女は誰だろうということだった。

 

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