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甘い、

恋とはどんなものだったかしら。
あんなにも好いていた男は、まるで枯れた木のようになってしまった。
あんなにも好いていた男は、もう輝きを失ってしまった。色褪せてしまった。寂れてしまった。
そうさせたのは私だろうか。
それともただ、私が変わってしまったのだろうか。
 
角砂糖が食べたくなった。
あれは舌でほろほろと解けたろうか。
それとも、歯でざりざりと砕けるものだったろうか。
 
角砂糖が食べたくて、通い慣れたスーパーへ。
厚みのある懐かしい袋の中で、ゴロゴロとした白い角砂糖の群れが積まれていた。
可愛らしいそれを袋越しに撫でてみるも、これではないと引き返す。
私が求めていたものはこんなものではない。
 
角砂糖が食べたくて、今度は友人の家へ。
華奢なカップに入った琥珀色の紅茶と、可愛らしいメリーゴーランドを模した容器の中で重なる白と茶、2色の角砂糖。
指で摘んで、手の平に乗せて、まじまじと眺める。
それを見た友人が、たしなめるでもなく、ころころと笑う。
もう一つ摘んで、2色並べてみる。
何かが違う。
落胆の色を察した友人が、私がそれを容器に戻すよりも早く、私の手の平からカップへ。
ちゃんと飲みなさいと言われ、少しぬるくなった紅茶を乱暴にスプーンでかき混ぜ、口を付けると思ったよりも甘い。
さして興味もなさそうに、探し物はあったの?と聞かれてゆるゆると頭を振った。
 
角砂糖が食べたくて、家からほど近い実家へ。
優しい母の微笑みに迎えられ、ほっと息を吐く。
テーブルの上で真っ白な小皿に盛られた薄桃色の角砂糖。
行儀悪く、べったりとテーブルに頬を付けて角砂糖を眺める私の髪を、母の指が優しく流す。
何だか近いような気がして、体を起こして角砂糖を口へ運ぶ。
甘い。なんて甘さだ。
思わず喉の奥がしょっぱくなる。
それから出された紅茶を喉へ流し込む。
すぐ飲めるようにとぬるめで、少し渋く入れられた紅茶が、私を元に戻してくれる。
何も言わない母は、小さな頃のように私の頭を撫でて、またいつでもおいでと見送ってくれた。
 
一人の部屋へ帰り、二人抱き合って眠ったベッドに倒れ込む。
甘くて、苦くて、しょっぱくて。それから優しくほろほろと解けて消えてしまう。
私が探していたものは、そんな日々の欠片だったのだろうか。