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赤く染まる

※気分を害する可能性があります。

 

 

 

 

鈍く光を反射する赤銅色の河の真ん中で、わたしはずっと立っている。ずっとがどれくらいずっとかは、とっくのとうに忘れてしまった。
赤い水は膝より少し低い所まであり、お誕生日の真っ白なワンピースが赤く染まらないようにと、わたしは裾を太もも半ばまでたくし上げる。
いつからそうしているのかわからない。ずっとは本当にずっとだったろうか。
昨日からかもしれないし、1週間前かもしれない。もしかしたらひと月以上前かも。
でも少し前までは川の前にいたような気もするのだ。
それなのに、気付けば河の中心に立っていて、それも河の水はくるぶし程だったはず。
前を向けば河を渡る人の様なものの群れ。
それらがざぶざぶと河を横切る。
それに触れると心が冷えるので、わたしは時折伸ばされる手を全て見なかったことにする。
前に寂しげに揺れる手を取った時、悲しい記憶に襲われ、暫くの間涙が止まらなかったのだ。
そしてその涙で河は更に赤みを増していった。
ふと喉が渇いているような気がして、両手でおわんを作り、赤をすくい上げて飲んでみた。
熱いような、冷たいような、辛いような、苦いような。それでいて何だかクセになる。
もう一度、もう一度と口に運ぶ度に、少しずつ瞼が重くなる。
ふと下に視線を落とすと、真っ白なワンピースの腰まで赤に浸かっていた。そこから上に上にと赤が這い上がる。
ああ、わたしの白は汚れてしまった。
いいえ。わたしは真っ赤なワンピースが欲しかったのよ。
そこでわたしは、わたしの愛していた世界は。
 
それは、とても静かな朝でした。
真っ暗な世界で、母となった人の体温と震える空気を、薄く開いたままの唇に押し付けられる柔らかな乳房を感じながら。
わたしは確かに産まれ、それでもこの世で生きることは出来なかった。