個体値、神社、プラスチック

気付けば、白いイチョウの木の上で脚をぶらぶら、座っていた。
見下ろせば青い鳥居。地面がある筈の場所は暗く、底が知れない。
見上げた空はまだ決まっていないようで、赤、青、緑と少しずつ色が変わっていく。
 
ここは?
そう呟いたはずの声は無く、代わりに口から星が零れる。

……カラー…ン。

そこでようやく地面があるようだと気付く。
下まで少し遠いようで、それでもここでただ座っているのは退屈だった。

よいしょ。
ゆっくりと太い幹にしがみつきながら脚を下へ、下へ。
 
ずるり。あっ。
きゃーーー。
一々零れる星と共に地面へ。

どさり。
 
思っていたより痛みはなく、ただ衝撃として視界が揺れる。
立ち上がり、歩き出そうと思えど、脚が動かない。
視線を落とせば、砕けたプラスチックの様な脚だったもの。
 
ああ、私ヒトじゃない。
夢を見ているような気持ちで、その残骸を掻き集める。
 
そうか、これは夢なのだ。
 
夢であるのに、なんだか悲しくて。
今度は目から(多分目だ)青くて小さな魚が泳ぎ出てくる。
嗚咽を漏らせば星が。涙を零せば魚が。
なんだか可笑しくて、疲れてしまって、状況を変えるために周りを見渡す。
 
おや。
どうして気付かなかったのか。
青い鳥居の下、お社がある。
そしてお社の手前には賽銭箱が。
足元に散らばる星を拾い上げ、賽銭箱に向かって投げる。
 
入って。お願い。
 
幾つも外してはまた星が零れ、繰り返し。
繰り返し、繰り返し。
何十回目か。
魚にぶつかった星が高く飛ぶ。
 
ちりーん。
 
鈴の様な音。
どうやら賽銭箱に入ったらしい。
 
今はこんなものしかありません。
どうか、どうかカミサマ。私を起こして。
酷い夢から覚めたいの。
 


そうして光は満ちた。
 


目を開くと、白い部屋。
たった1人、黒い部屋。
ぼんやりと見渡し、思い出す。
そうか。私はずっとひとりだった。
 
少女は窓から夢へ還った。
 
 

どうでした?あの子。
どうかな、個体値は良かったんだけど。
そう。やはり数値だけではダメなのね。
最初から脚も無かったし、なんだか目もおかしかったわ。
仕方がない。次の雛を用意しよう。
 


ピッ…ピッ…ピッ…ピッ……。
 
 
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