街灯、エプロン、煎餅

街灯のない暗い道をスマートフォンの明かりを頼りに歩く。
仕事帰りにこの道を通るのももう慣れた。近道なのだ。
 
長く思えた道を歩き切り、冷えた手で鍵を探していると、ガチャリと音がしてドアが開く。
「おかえりなさい」
「……ただいま」
広げられた腕に応えてやると、嬉しそうにはにかむ。
体を離すと薄桃色のエプロンをしている。
そういえば中からいい匂いがする。
家に入ってスンスンと匂いを嗅げば、お風呂も沸いてるよと柔らかな声。
こんな日も良いものだ。だが違う方の腹が空いた。
 
女の手を引いて薄っぺらな布団へ。
優しく倒して何度かキスしてやれば、瞳をとろりと潤ませる可愛い女。
先ほどまでエプロンを付けて俺の為に料理を作っていた楚々とした女性が女になる瞬間に、堪らなくそそられた。
布団の上でもつれ合い、高め合う。聞こえるのは荒い呼吸と高く切ない叫び声。それから打ち付けるような湿った音。
仕事のストレスをぶつける様に嬲れば、うっとりと焦点が合わなくなる。
 
意識無く、ただ反射の様に声を漏らすようになった女から離れて台所に行くと、鍋には少し冷めてしまった肉豆腐があった。
適当な皿に盛って食べながらぼんやりと考えるのは、この女は誰だろうということだった。

 

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