氷の君

薄く張った氷のように、私の表面には壁があるらしい。
透明だけれど確かに存在していて、薄いくせに冷たくて固いのだとか。
簡単に壊れてしまいそうで、ずっと在り続けるそれは、私の一部と言えるのか。「世間」に貼り付けられた印象なのか。
 
ぺたりと自分の頬に触れる。
手のひらの方がずうっと冷たい。
人に、モノに、真っ先に触れるこの手は、温かなものを震え上がらせてしまうほどに冷たい。
その手を取る、温かな手。生きている手。
 
「寒かったでしょう」
 
両の手で右手を包み込み、口元へ引き寄せて吐息をかける。
温かい。
 
まるであなたの魂を吸い取っているかのよう。
私の氷はあなたの命を吸って溶ける。溶けてしまう。
私は何が返せるだろう。私に何が出来る。
ふと君が顔を上げて、気遣わしげにこちらを見た。
吸い寄せられる。
 
そっと唇を寄せる。温かい。
そのとき、私の左手があなたの頬に触れた。
 
「冷たい」
 
どうしてだろう。その声すら温かくて。
冷たい私はその唇を、もう一度。