誕生日、蛍光、方法

彼女が死んだ。
誰にも言わないまま、独りでソレを選んだ。
当然俺にも言わなかった。
 
合鍵を使って彼女が住んでいたワンルームに入る。
玄関を開けて、電気をつけながら短い廊下を通り、ベッドと本棚しかないような狭い部屋へ。
ベッドの上には俺がプレゼントした猫のぬいぐるみ。
殺伐とした部屋に、少しは無意味なものを置けよってゲームセンターで取ったんだっけ。
 
何も無い部屋で、それでも彼女の存在を感じたくて。ぬいぐるみを抱いてベッドに沈みこむ。
彼女にとっては寝て本を読むだけの部屋だった。ベッドの軋みも安っぽい。
 
深く息を吸い、深く吐く。
このまま消えてしまいたいとさえ思った。
それでも記憶の中の彼女が、言うのだ。
 
「生きて」と。
 
なんて都合よく働く記憶なのだろう。
ただ俺が死にたくないだけなのだ。
 
女々しくも感傷に浸って、部屋を出ることにする。
彼女がお気に入りだった詩集を形見に持って。
部屋の電気を消して、一度だけ振り替えることを自分に許す。

 

すると、そこに蛍光塗料で書かれた「happy birthday」の文字が浮かんでいた。

今年の俺の誕生日に、彼女が後先考えずに書いたのだ。
 
なんで、どうして。
どうして俺に言ってくれなかったんだ。
どうして。他に方法は無かったのかよ。
真っ白だった頭に、次々と言葉が浮かぶ。
 
真っ暗な部屋で散々泣いて喚いて、床を叩いて。
彼女が見たら指を指して笑うだろう。
それでも今はそれしか出来なかった。
他にどうやって気持ちを逃せる?
俺にはわからない。
ズレていたけど頭の良かった彼女ならわかったのだろうか。

 


その日から俺は、彼女を取り返す方法を探し続けている。

 


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