ティッシュ、カッパ、校庭

何だか真っ直ぐ家に帰りたくなくて、図書室で時間を潰していた僕は、ふと窓の外を見た。

雪だ。そしてくるくると回る小さな影。

まだ遅くないとはいえ、高校に小さな子が来るなどと、何か理由があるのだろう。

丁度いい暇潰しだと外に出る。

校庭の真ん中辺りにそれは居た。

雨合羽を羽織り、空を見ながらくるくると回る子供。

男の子のようにも、女の子のようにも見えた。

「どうしたのかな?此処にお兄さんかお姉さんが居るの?」

そう声を掛けると、やっと気が付いたようにこちらを見る。 その顔が、むずむずと。

「ふぁ、、っぐしゅん!!」

可愛らしく、盛大なくしゃみ。ああ、綺麗な顔がよだれと鼻水でぐしゃぐしゃになった。

袖で拭こうとするものだから、慌ててポケットを探るけれど、ハンカチしか入っていない。

仕方なくハンカチを差し出すと、子供はハンカチでぐしゃぐしゃになった顔をゴシゴシと拭う。

ああ、ポケットティッシュさえ入っていれば。

内心落ち込みながらも、大丈夫かと声を掛ければ、子供はにっこりと笑う。

「ありがと!またね!」

見た目通りの幼い声でお礼を言ったかと思えば、手を振り振り、走り去ってしまった。

「ハンカチ……」

呆然と呟いた情けない声は、誰も居ない校庭で雪と共に溶けた。

 

数日後のこと。

隣りのクラスの女の子から子供に渡した筈のハンカチが返ってきた。

ああ、あの日ポケットティッシュを持っていれば。

少し恥ずかしそうに笑う彼女に惹かれることなどなかっただろうに。